「イアイ」
ニシノさんは、そう呟きました。
ニシノさんの下の名前にも、い、がつくのと、おさるさんの歌を思い出したのと、
そのソファーで寝ているえらい師匠のおじいさんの、職業を聞いて思いついたのでした。
イアイはすでにおじいさんの頭の上のソファーの肘掛けで寝ており、
ゆうこさんも片付けを済ませて自分の部屋へと戻っていました。
ニシノさんは、めずらしく、
少し、悲しい気持ちになっていました。
〜毎日毎日いろんな人が来たりするけれど
みんな、それぞれに帰っていく。
私は果たして、彼らのために
何かできるのだろうか。
今、ここにいて、話を聞き、寄り添う。
そんなことに、
何か意味はあるのだろうか。〜
そんな風に思いながら、いつものソファーの後ろにあるデスクに腰掛けました。
なんだか眠れる様子もないので、そのまま、デスクに向かい、
書きかけの小説の続きに取り掛かりました。
ガシャん!!!
音のする方を見ると、
ニシノさんがとても大切にしているジクソーパズルの完成形を飾ってある棚に、
イアイが起き出して登り、いたずらをしていました。
そんなにたくさんのピースはないものですが、それでもそれなりにたくさんあります。
ニシノさんは、今までにはない胸の痛みを感じました。
イアイを優しくいさめたあと、ダンボールの箱に、ふかふかの毛布をつめ、
彼のためのベッドを作ってやりました。
イアイは心なしか申し訳なさそうに、そのベッドへともぐりこみ、
もう一度眠りはじめました。
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