のぶおくんのお話。

ゆうこさんとニシノさん

その日はよく晴れていて

ゆうこさんは朝から洗濯物を干してから、

珍しくオムライスでも食べようと、キッチンに立って、人参をきっていました。

 

硬めのニンジンにゆうこさんが奮闘しているうちに

ニシノさんが起きて来て

ベリーフレーバーのピンクのカプセルで、コーヒーを入れはじめます。

 

部屋には甘酸っぱい香りと、ニンジンをきる音だけ。

 

すると突然

 

コンコンコン。リーーーン。

 

とドアの開く音がしました。

 

ニシノさんは音に敏感なので、ピンポンという音が嫌いだと

ノック式にして、開けた時にわかるよう蝶々の羽の形をした鈴をドアにつけています。

 

「こんにちは。」

 

小学校5年生くらいの男の子が、家に入って来ました。

 

「僕、のぶおって言います。」

 

ゆうこさんはニンジンを放り投げて、にっこり笑ってのぶおくんをソファーに座らせました。

 

子供なのでホットミルクでも飲む?と聞いてあげたのですが

 

「いいえ。コーヒーでお願いします。ブラックでかまいません。」

 

ゆうこさんは少し甘い香りのチョコフレーバーのカプセルを選び、のぶおくんに入れてあげます。

 

そして自分にはデカフェナートを。ニシノさんは元々持ってるベリーコーヒーを持って、

 

いつものデスクへと腰掛けます。その前にのぶおくんにちらっと笑いかけるのは忘れずに。

 

「僕って、いててもいいのかな、て思うときあるんです。」

 

のぶおくんが少しうつむき加減で、ポツリポツリと話はじめました。

 

僕って、いててもいいのかな、って。

だって学校でもうまくできないし。

 

話だってうまくできない。

運動もそんなにできるわけじゃないし。

 

勉強は好きだけど

もっと、もっと、て言われると、困ってしまう。

 

そんな僕を

がっかりした顔でお母さんは見るんだ。

 

時々、よっぱらって

僕の髪の毛を掴むんだけど

 

痛くはないんだけど、その時のお母さんの顔が笑っていて、、、

 

とても怖くなる。

 

それって、僕が嫌いだからでしょ。

 

普通、頭に手を伸ばしたら撫でられるとか思うんだけど、髪を掴むんだ。

 

そして、笑ってるんだ。

 

だからさ、今度、えらい先生に会いに行かなくちゃいけないんだけど、

 

きっと怒られるからさ。

 

それが嫌だから、ここに来させてもらったんだ。

 

ねぇ。ここに匿ってよ!まだお部屋あるよね!!!住んでもいいよね!!!

 

「のぶおくん、どうして、僕なんていててもいいのかな、て思うのかな?」

 

ニシノさんが、先にのぶおくんに問いかけました。

 

だってさ!僕、何も喜ばれるようなことしてないんだ。

妹みたいに、可愛い可愛いって。みんなを笑顔にできないし。

でももういいんだ!

 

ここにいてもいいんでしょう!!!

 

ニシノさんは、少し困ったような顔で笑いながら、ゆうこさんの方を見ました。

 

ゆうこさんはにっこり頷いて、それからキッチンの方に向かっていきました。

 

ニシノさんは続けます。

 

「のぶおくん。ここにいてても別にいいんだけど、

ここはちょっとのぶおくんのためには狭すぎるんだ。

のぶおくんはこれから、たーくさんの失敗をして、恋をして、いろーんな経験を積んでいくわけ。

ここには、私とゆうこさんがいてるだけ。経験するには、少し、狭いんだよね。

 

それにね、私たち実は、そのえらい先生を知ってるんだけど、

決して怒ったり、がっかりしたり、説教したりしないんだ。のぶおくんの全てを聞いてくれて、

そして、全部を正直に話すことができたら、大きな手で、頭を撫でてくれる。

私たちも撫でられたことあるんだけど、それはそれはなんて言うんだろ。

胸がいっぱいになっちゃうような感じだった。

のぶおくんもきっと、その先生のことが好きになると思うよ。」

 

本当?

 

のぶおくんは疑いぶかげ。

のぶおくんが考え込みながらコーヒーをすすっていると、

 

「できちゃったよー」

 

と、ゆうこさんがお皿を持ってやって来ました。

 

「もうニンジンめんどくさいからオムレツにしたわ。」

 

と、卵だけのオムレツを運んで来ました。

 

ニシノさんとゆうこさんは少しのチーズを振りかけただけのもの。

 

のぶおくんには、

 

たっぷりのチーズと、赤いケチャップで、

 

ぐるぐるぐると、渦巻きが書いてあるもの。

 

のぶおくんは、一口食べ、

 

それからあとは口の周りにケチャップがつきまくるのにもかかわらず、

 

スプーンも使わず、お皿から直接平らげてしまいました。

 

そして何も言わず

 

ケチャップのついた手をズボンで拭いてから、

 

ゆうこさんとニシノさんに一礼頭を下げて、

 

庭へ続く方の窓から外へ出て、おうちへ帰っていきました。

 

ニシノさんとゆうこさんは何事もなかったように、

 

プレーンのオムレツを食べ、

 

お互いの仕事へ出かける準備をはじめました。

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