ボンジョールノー!!!
ぼんじょるの!!ぼんじょるのってば!!!
ゆうこさんが買い物に行こうと線路沿いの道を歩いていると、イタリア好きのおじちゃん、
近所のスズキさんが後ろから声をかけていたのでした。
スズキさんは、近くで、人気の美容院を営んでいます。
ゆうこさんは、考え事をしていたので、スズキさんの「ぼんじょるの!」に
気づけずにいたのでした。
スズキさんはめげずにぼんじょるのを言い続け、やっと振り向いてもらうことができました。
「ボンジョルノ シニョール!コメスタイ?」
ゆうこさんは、にっこり笑ってイタリア語で返事をしました。
「お元気でしたかなー?シニョーラ!
ご無沙汰しておりましたな!あそこのイタリアンでは時々お目にかかってましたが、
このご時世ちょっと控えておりましてな!」
スズキのおじちゃんは、ゆうこさんもニシノさんも大好きなイタリアンレストランの常連さんでした。
ここのところ、世界中で、正体のわからないウイルスが蔓延しており、特に、年齢のいった人は、
外出を控えるようになっていたのでした。
みんな、なんとなく、心が少し小さくなったような感じで、人との接触を避けています。
だけど、スズキのおじちゃんは、久しぶりに若い人に会えたのが嬉しいのか、嬉しそうに立ち話を続けます。
★
私はね、今ウイルスについて研究しとるのですよ。
あなたは、ウイルスってなんだと思っていますか?
ウイルスもね、人間とおんなじような生き物なのかな、と。
そして、明確な意思を持っている。賢いのです。
生き物は、すべからく、生存本能があり、より、強い個体を、後世に伝えようとしますな。
ウイルスも、おんなじなんではないかなと、私は思っとるわけなんですな。
これの発生源と言われておるコウモリ、というのは、遺伝子的にとても原始的で古い構成をしとるようなんです。
だからまず、この、イーズィーなところから発生してですな、
コウモリたちの力を借りて、広がってゆくのです。コウモリは、じめっとした穴蔵で集団で生活し、
どこまでもどこまでも飛んで行ける。拡散していくにはもってこいなのですな。
タンポポの綿毛のようなもんですわな。
そして、今んところ、地球で一番強い、新しい遺伝子を持っている、ニンゲン、にたどり着く、と。
その、イーズィーなところでふえた彼らは、最終的に、自分たちの体を鍛えるため、
ニンゲンの中でチャレンジをするわけです。
薬を使ったり、そもそも、白血球や、マクロファージ、その他たくさんの免疫細胞がいるニンゲンの体の中で、それら細胞たちに、お手合わせを願うわけです。
ちょくら、お取り組み願えませんか?と。
そして、ドッタンバッタンと取っ組み合いをして、お互い勝ったり負けたりしながら、
強くなっていくわけですな。
当然こうー新しいまぁいわゆる「敵」と戦うわけですから、免疫細胞たちも、知らず知らず、
強くなっていくのでしょうなぁ。。。
ま、これは私の中の仮説ですからな、まぁ話半分で聞いてくださったらよろしいのです。
私は常々思っておるのですが、
人間は、この地球上で、自分たちが一番、「頭がいい」と思っとるけれども、
タンポポも、コウモリも、木も、風も雲も、そしてウイルスも、意思があって、
それぞれに、自分のやるべきことを精一杯全うしておる、賢いものたちなのではなかろうか、と。
人間だけが、他の生物や、もっというと人間同士、監視して、コントロールしようとして。
守ろう!と言ったり、やっつけよう!と言ったり、批判したり、擁護したり。
もしかしたら、人間だって、本当に、自分のことだけを、みんなが一生懸命全うしていたら、
ウイルスとも、共存していけるのではないかな、と、
そんなことを考えておるのです。
おっと、長くなってしまいましたな、お嬢さん。
事態が収束したら、またあのイタリアンで、一緒にビルエヴァンスの話でもしましょうな。
では!アリヴェデルチ〜!
★
ゆうこさんは、
チャオチャオー!
とスズキさんに別れを告げ、スーパーの方に再び歩き始めます。
人間って、なんなのだろう。
私って、なんなのだろう。
からだって、なんなんだろう。
意識ってどこにあるのだろう。。。。
そんなことを考えながら、スーパーの方に歩いていると、
ふと、
ニシノさんが大好きな曲、
『ワルツフォーデビー』
が、頭の中で再生されはじめました。
ゆうこさんは人間について考えるのをやめ、
そのうつくしい旋律に、
心の耳を傾けるのでした。
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