やまにしさんのお話。

ゆうこさんとニシノさん

 

「ね、見てゆうこさん。」

 

ニシノさんの視線の先には、庭で踏ん張っている一匹のしばいぬ。

 

あらぁ〜

 

と言ったものの、ゆうこさんはソファーに座ったまま、その様子を眺めるのみ。

 

ニシノさんも、庭を眺めるのみ。

 

踏ん張り終えてスッキリした様子で、ハーブの植え込みの上を嗅ぎ回っている様子を

 

二人でぼーっと眺めていると。

 

「あー!!!こらこらこら!!!もう!!また逃げて!!!しかも、うんちまでして!!!」

 

中年のおじさんがどこからか庭へと入って来ました。

 

ゆうこさんはにっこり笑って窓を開けました。

 

「あーほんとにすみませんねぇ!私、やまにしと言うもんですが、散歩中に逃げちゃって!もう!」

 

しばいぬはおじさんを挑発するように跳ね回っています。

 

 

お庭で遊びたいみたいですし、ここからなら見ておけるから、よかったらお茶でもします?

 

 

ゆうこさんは、やまにしさんをソファーのある部屋へ招き入れました。

 

 

やまにしさんは、丁寧に靴を脱いで、部屋へと上がり、

少し緊張した様子で、部屋に貼ってある外国のポストカードなんかを見るともなく見ていました。

 

ゆうこさんは、いつものように来客用のウェッジウッドのカップに黒いカプセルのコーヒーを入れ、

貰い物のチョコレートと一緒に出してあげました。

 

「ああ、すいませんね。」

 

やまにしさんはコーヒーを一口すすると、庭ではねているしばいぬを見ながら、話しはじめました。

 

犬はいいよねぇ。何も考えないでいいから。ああやって、跳ねてるだけでいいんだもん。

いや私ね、教師をやってまして。もう引退したんですけど。

いやーあんな仕事、やるもんじゃないよね。

だってさ、自分が穴だらけなのに、子供たちを指導しないといけないんだもん。

偉そうに指導してたってさ、自分はと言うと、給料も少ないし、家庭もパッとしないし。

趣味と言っても趣味がないとダメっぽいから、スキーやってますなんて言ってみて

でも全然楽しくないわけよ。寒いし、こけるし。

けど、スキーやってます。て言いたくて、スキーやってたの。

でね、ある時派手に転んで、靭帯切っちゃったの。その時の後遺症でね、ほら。

 

 

そういえば、やまにしさんは右足を引きずるような歩き方をしていたな、

とゆうこさんは思いました。

やまにしさんは続けます。

 

だからさぁ、部活なんかも教えられなくなっちゃって。いや、できるんだけどね、

一緒に走ったりできないでしょ。

それでさ、あいつやってないくせに、とか思われそうで。

怒鳴り声だけは一番大きくしてやろうと。俺はここにいるんだぞ、と。

お前ら見張ってるんだからちゃんとしないとだめなんだぞ!と。

 

でもね、

 

家に帰ったら落ち込むんですよ。嫁はなんかそっけないし、娘は話しかけても無視するし。

だから、何か話したいと思って、

 

そこにゴミ落ちてるぞ、とか、

またドア開けっ放しだぞ!とか言っちゃうんです。

 

何かもっと楽しいこと話したいんだけど、そんなことしか出てこないんです。

 

で学校行ったら先生やんなくちゃいけないし。やめてもなんか、見張ってるような、

見張られてるような、変な感じなんですよ。

 

はーーーーーーーーーっ。

 

 

やまにしさんはそこまで一気に喋って、大きなため息をつきました。

 

ゆうこさんはにっこり笑って

 

「でも、感謝してる生徒さんもたくさんいるのではありませんか?」

 

と聞きました。ニシノさんは黙ってパソコンで何やら作業中です。

 

「いやぁーいないんじゃないですか?だって、いつも、生徒の粗探しばっかりしてたもん。

注意しないと、存在価値ないと思ってさ。うっとおしい先生だったと思うよ。

足だって引きずってカッコ悪いしさ。」

 

粗探しばっかりしてたんですか。

 

ゆうこさんは可笑しそうにそう言うと、ふと、やまにしさんが何かを見ていることに気がつきました。

 

そこには、ゆうこさんのお気に入りの、大日如来さんの絵が立てかけてあるところでした。

 

「きれいでしょう。」

 

ゆうこさんはやまにしさんに言いました。

 

「いやぁ。。。。仏様?かな。なんか好きで。心があらわれるって言うかなぁ。

けどさ、宗教ってなんか変な目でみられるじゃない。特に教師ってさ。嫁の実家の宗教のせいで

神社仏閣もなんか行きづらくてさ。

けど、なんか。。。」

 

やまにしさんは、立ち上がってその絵の前まで来ました。

 

その時です。

 

バン!バン!バンバンバン!!!!

 

庭ではねるのに飽きたしばいぬが、窓を叩いて入れろ入れろとアピール。

 

 

だけど、やまにしさんは、振り返りもせず、その大日如来さんの絵をじっと見つめています。

 

ニシノさんが、デスクの引き出しから、何かを取り出しました。

 

「これ、その絵のポストカードです。よかったらお持ちになります?この絵を描いた人にもらったんです。」

 

やまにしさんは、ものも言わず、そのポストカードを受け取り、

 

そして、二人に深々とお礼をして、しばいぬに紐をつけて、帰っていきました。

 

ゆうこさんとニシノさんは、

 

庭に残されたままのウンチを、

 

どちらが片付けるかのじゃんけんをはじめました。

 

(ゆうこさんが勝ちました。)

 

 

 

 

 

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