峯岸さんの話その3。

ゆうこさんとニシノさん

俺はさぁ、、。

 

小さい時に母親に捨てられて、施設で育って、一人で生きてきたんだ。

 

どうせ誰も俺のことなんて気にかけない。そう思って、知り合い以上の人付き合いをしないようにしてた。

 

だって、期待したって裏切られるだけだろ。

 

でもさ。彼女だけは違った。

 

仕事先で出会って、最初はたまに話す程度だったんだけど、こんな俺の話をさ、

 

真剣に、楽しそうに聞いてくれて。今までも彼女ってのは作ったことがあるが、どの女もアホでさ。

 

(確かに背が高くて鼻筋も通って、男前だな。私のタイプではないけど。とゆうこさんは思いました。)

 

なんか、アホみたいに泣いたりわめいたりするから、めんどくさくなって、連絡取らなくするんだ。

 

そうしたって、数ヶ月、いや、数日の奴もいたな。

 

フェイスブックかなんかで新しい男ができたとか自慢してるわけ。

 

まぁさ、あぁよかったね、と。みんなそんなもんなの。俺じゃなくていいわけだよ。俺もどうでもいいよそんなん。

 

けどさ、彼女だけは違ったの。泣きも喚きもせず、真剣に俺の話を聞くんだ。

 

俺、なんか怖くなってさ。他の女といるところわざと見せたりさ、色々試してみたんだけどさ。

 

絶対に、泣きも喚きもせずさ。

 

峯岸くんがそうしたいなら。っていうんだよ。

 

でも、絶対に俺のこと待っててくれるんだよ。

 

それがわかってからはさ。もう他のしょうもない女なんか心底どうでもよくなって。

 

あっちでの空虚な人間関係も、もうどうでもよくて。

 

彼女といる時間があれば、俺はそれでいいんだ。

 

ぼちぼちプロポーズも考えたりしてるんだけど、なんかまだ自信なくてさ。

 

 

峯岸さんはそこまで喋ると、恥ずかしそうにゆうこさんの方をみました。

 

そこで、やっと目が覚めてきたニシノさんは、コーヒーを片手に、峯岸さんに微笑みかけました。

 

「峯岸さん。素晴らしい人と出会えて、ほんとうによかったですね。

人生の中で、そんなに心から受け入れてくれる人に出会うって、もう、奇跡のような幸せなんです。

私がバイクで病院まで送りますから、彼女のところに行ってあげてください。

あなたもまだ手当が必要でしょうし。でも大丈夫。あそこの病院は、親切だし、よく診てくれます。

安心してください。」

 

そこで、ゆうこさんはハッと思い出しました。

 

「あぁ、そういえば。

こないだのおばあちゃん如意棒を忘れちゃってるのよー。ついでに家まで届けてくれない?」

 

ニシノさんは笑って

 

いやー、あの時さ、おばあちゃん家に帰ったんじゃなくて。

線路脇に小さな神社があるでしょ?氏神さんの。あそこでお参りする。ってさ。

で、待ってましょうか?て言ったんだけど。もういえは近くだからいい、っていうんだよ。

それでさ、私も、あ、杖忘れたんじゃないんですか?て聞いたんだけど、

あれはいらん。ただのカモフラージュや。とかよくわかんないこと言ってたんだよねぇ。

もういらないって言ってたし、家もわかんないし、いいんじゃないかな。

あ、そうだ。お年寄りのかたご自由にどうぞ、て、病院に置いてくるよ。

さ、峯岸さん行きましょうか。

 

峯岸さんは少し痛みのましになった右足を引きずりながらも、

ニシノさんのブルーのバイクの後ろにまたがり、

病院へと向かって行きました。

 

ゆうこさんは、椎名林檎のアルバムを聴きながら、朝食の後片付けを始めました。

 

 

 

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