俺はさぁ、、。
小さい時に母親に捨てられて、施設で育って、一人で生きてきたんだ。
どうせ誰も俺のことなんて気にかけない。そう思って、知り合い以上の人付き合いをしないようにしてた。
だって、期待したって裏切られるだけだろ。
でもさ。彼女だけは違った。
仕事先で出会って、最初はたまに話す程度だったんだけど、こんな俺の話をさ、
真剣に、楽しそうに聞いてくれて。今までも彼女ってのは作ったことがあるが、どの女もアホでさ。
(確かに背が高くて鼻筋も通って、男前だな。私のタイプではないけど。とゆうこさんは思いました。)
なんか、アホみたいに泣いたりわめいたりするから、めんどくさくなって、連絡取らなくするんだ。
そうしたって、数ヶ月、いや、数日の奴もいたな。
フェイスブックかなんかで新しい男ができたとか自慢してるわけ。
まぁさ、あぁよかったね、と。みんなそんなもんなの。俺じゃなくていいわけだよ。俺もどうでもいいよそんなん。
けどさ、彼女だけは違ったの。泣きも喚きもせず、真剣に俺の話を聞くんだ。
俺、なんか怖くなってさ。他の女といるところわざと見せたりさ、色々試してみたんだけどさ。
絶対に、泣きも喚きもせずさ。
峯岸くんがそうしたいなら。っていうんだよ。
でも、絶対に俺のこと待っててくれるんだよ。
それがわかってからはさ。もう他のしょうもない女なんか心底どうでもよくなって。
あっちでの空虚な人間関係も、もうどうでもよくて。
彼女といる時間があれば、俺はそれでいいんだ。
ぼちぼちプロポーズも考えたりしてるんだけど、なんかまだ自信なくてさ。
峯岸さんはそこまで喋ると、恥ずかしそうにゆうこさんの方をみました。
そこで、やっと目が覚めてきたニシノさんは、コーヒーを片手に、峯岸さんに微笑みかけました。
「峯岸さん。素晴らしい人と出会えて、ほんとうによかったですね。
人生の中で、そんなに心から受け入れてくれる人に出会うって、もう、奇跡のような幸せなんです。
私がバイクで病院まで送りますから、彼女のところに行ってあげてください。
あなたもまだ手当が必要でしょうし。でも大丈夫。あそこの病院は、親切だし、よく診てくれます。
安心してください。」
そこで、ゆうこさんはハッと思い出しました。
「あぁ、そういえば。
こないだのおばあちゃん如意棒を忘れちゃってるのよー。ついでに家まで届けてくれない?」
ニシノさんは笑って
いやー、あの時さ、おばあちゃん家に帰ったんじゃなくて。
線路脇に小さな神社があるでしょ?氏神さんの。あそこでお参りする。ってさ。
で、待ってましょうか?て言ったんだけど。もういえは近くだからいい、っていうんだよ。
それでさ、私も、あ、杖忘れたんじゃないんですか?て聞いたんだけど、
あれはいらん。ただのカモフラージュや。とかよくわかんないこと言ってたんだよねぇ。
もういらないって言ってたし、家もわかんないし、いいんじゃないかな。
あ、そうだ。お年寄りのかたご自由にどうぞ、て、病院に置いてくるよ。
さ、峯岸さん行きましょうか。
峯岸さんは少し痛みのましになった右足を引きずりながらも、
ニシノさんのブルーのバイクの後ろにまたがり、
病院へと向かって行きました。
ゆうこさんは、椎名林檎のアルバムを聴きながら、朝食の後片付けを始めました。
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