ゆうこさんのお母さんは、熱心な、とある宗教の信者でした。
ゆうこさん自身は、今は特定の宗教を信じているわけではありませんが、
小さい頃、母親に連れられていく教会の時間は、とても好きな変わった子供でした。
その教会では、みんな、前に立つ先生のお話を熱心に聞き、
賛美歌のようなものを歌いました。
そんなことをしている大人たちの様子を見るのが、
ゆうこさんは昔からなぜかとても好きでした。
★
教会の中に入ると、その時は、信者同士が少人数のグループになって
自分の悩みや経験を打ち明け合う、お話会の時間でした。
そのお話会は、信者でないと、参加をすることはできないものの、
後ろの方に座って、そんな人たちの話を聞くことはできました。
ゆうこさんは、心の耳の向くままに、
いろんな人の悩みや、それに対する見解、アドバイス、共感、の声を聞いていました。
子供が不登校で困っている。
親が介護が必要なのだが、仕事もしないといけないため、時間が足りない。
パートナーとうまくいかず、心に寂しさを抱えている。
仕事先で、頑張っているのに認められず、悔しい思いをしている。
大切な人が、病気を患って、もう長くない。奇跡を信じたい。。。
などなど。。。。
人々の悩みや、苦しみには、さまざまなものがありました。
皆、話している人の方に集中し、時に頷き、時に励まし、時に涙しています。
これといった解決策というものはないのですが、皆、真剣に話し合っています。
それを1時間ほどじっと聞いていたゆうこさんは、不思議な感動に包まれていました。
そのうちに、お話会が終わり、次は、歌の時間になりました。
信者の一人が、アップライトピアノの前に座り、他のものはその場にたち、準備を始めました。
ゆうこさんの手元にも、歌詞と、簡単なメロディーの音符が書かれた、小さな紙が回って来ました。
★
YOU
It’s OK. You’re OK.
Everything is over.
It’s OK. You’re OK.
You did your very best.
But you may have some regrets.
I know that, too.
But it’s already over.
cause you, you are MY everything.
★
それは、魂を癒すような、優しい旋律でした。
初めて聞いたはずなのに、ゆうこさんは、なぜかその曲を一緒に歌うことができました。
ゆうこさんは、誰にも負けないような大きな声で、
一生懸命歌いました。
「あなたは、初めての方ですか?よくお越しくださいました。
今日は、熱心にご参加されていましたね。見ていましたよ。
どうもありがとう。
あなたがまたお越しになるかはわかりませんが、
今日ここに来てくださったしるしに、こちらをどうぞお持ちください。」
教会の手伝いをしている信者の一人が、ゆうこさんにそう声をかけ、
何やら封筒を手渡して来ました。
ゆうこさんは、その封筒をバッグにしまうと、お礼を言い、教会を出ました。
さて、どこに行こう。
ゆうこさんはあてもなく歩きました。
途中、喉が乾いてしまい、そばで見つけたホテルのラウンジで、ビールを飲むことにしました。
そのラウンジはとても賑やかで、打ち合わせや、チェックイン待ち、はたまたお見合いの様子の人たち、たくさんの人が、思い思いに時間を過ごしていました。
ゆうこさんは、ニシノさんのことを想い、胸にピキリと痛いものを感じながら、
少しづつビールを飲み、
一緒について来たナッツをかじりました。
ビールが半分くらいになったころ、ゆうこさんは、ふと、先ほどもらった封筒のことを思い出し
バッグから取り出しました。
封筒を開けて見ると、
そこには
とある絵の描かれた、パズルのピースが1枚入っていました。
コメント