その日ニシノさんは、家でパソコン作業をしていました。
ゆうこさんは、仕事でいません。
コンコンコン。
ノックの音が聞こえました。
ニシノさんはピンポーンの音がとても嫌いで、ノック式のドアにしているのです。
ニシノさんは、楽しみにしていた資料が届いたのかな?とワクワクしながらドアを開けました。
するとそこに、青白く痩せていて、髪が黒くてながい女の人が、張り付いたような笑顔で立っていました。
「かみさまのお話を聞きませんか?」
ニシノさんは、あー開けちゃったなぁ
と思いながら、こんな時だけ、カメラ付きの電子ピンポンにしとけばよかったと思いました。
「とてもいい、かみさまのお話なんです。」
いろんなことに敏感なニシノさんは、その人の笑顔の奥にある、
なんだか泣きたいような気持ちを、なんとはなしに眺めていました。
そのうちに、その女の人は
「ぜひ、あなたにも聞いていただきたいのです。楽しいんです。」
と言いながら、なぜか涙をポロポロと流しはじめました。
ニシノさんは、そのブラウンがかった目を少し細めて、しゃがみこんでしまったその人の背中を
優しくさすってあげました。
ごめんなさい。。。。。
「ま、今日は結構寒いですしね。寒いと、なんか悲しくなったりしますよね。よかったら、コーヒーでも飲んで行きます?中は、あったかいですよ。少し散らかってるけど。」
女の人は驚いた様子でしたが、ニシノさんに促されるままソファーに座り、ひざ掛けをもらい、
出てきたコーヒーの湯気をただ見つめていました。
ニシノさんは鼻歌を歌いながら、散らかった資料の束を片付けています。
「あの、、、、。いいんでしょうか。」
ニシノさんはにっこり笑って何がですか?といった感じで、首を傾げました。
コーヒーのことかと思ったニシノさんは、どうぞどうぞと手で飲む仕草をしました。
その人は、コーヒーがあることを初めて認識したかのように、
カップを手にとって、少し口元に持って行きましたが、飲まずに置きました。
そして、女の人は、話しはじめました。
あの、、、私、、、
使命があるんです。
できるだけたくさんの人に、このかみさまのお話を伝えるという。
だって!ほーんとに素晴らしいんです!!救われたんです、私も。。。
たくさんの人が、私からこのかみさまの話を知って、救われて、喜んでるんです。
上の人から、あなたは素質がある。たくさんの人に広め、みんなを救う、使命がある。
そう言われたんです。今まで何の取り柄もなくて褒められたこともあんまりなかった私が
初めてそんなこと言われて。。。
だから、これは私の使命なんです!さてっ!!!せっかくなんで、お話聞いてください!!!」
ニシノさんが、やっぱりピンポンをつけておけばよかった、ともう一度後悔しかけたその時
コンコーンココン!
とドアがなりました。そして、リーーーン。
これは、ゆうこさんが帰ってきた合図です。
ニシノさんは半ばホッとしたと同時に、なんて説明しようか少し考えてしまいましたが、
ゆうこさんも、おんなじような表情で、部屋に入ってきました。
いつもよりやけにゆっくりだなぁ、とニシノさんが思っていると、
ゆうこさんの左腕に、小さなおばあちゃんがぎゅっとしがみついて
よちよちと一緒に入ってきたのでした。
えっと、、、
ゆうこさんとニシノさんは、質問したいのと説明したいのが口元でぶつかってでた「えっと」
を同時に言いました。
そして、顔を見合わせ、笑ってしまいました。
おばあちゃんは、なんだか怒っているのか、ふてくされた顔をしています。
ゆうこさんが、先に話しはじめます。
「このおばあちゃんね、うちの近くでウロウロしてらしたの。で、心配になって大丈夫ですか?て聞いたんだけど、黙って腕を掴まれちゃったの。だから、もうとりあえず、連れてきたの。」
ゆうこさんは困った顔で、笑いながら、ニシノさんの反応を待ちます。
おばあちゃんはやはりゆうこさんの腕を掴んだまま、ふてくされた顔。
ニシノさんは、困ったような面白がってるような顔をして、
「そうしたら、後で私のバイクでおばあちゃん送ってあげるよ。とりあえず、さ。
コーヒーでも飲もうか。あ、日本茶もありますよ。」
ゆうこさんはその女の人がテーブルに広げているパンフレットをちらりと見て、
ああ、ニシノさんカメラ付きのピンポンにしたらいいのになぁと思いながら、
女の人ににっこりと微笑みかけました。
奇妙なメンバーで、とりあえず、あったかい飲み物を飲むことにしました。
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