今日は、ゆうこさんは仕事に来ています。
ニシノさんは、テレビの音も大嫌いなので、家にテレビはありません。
仕事場の休憩所でテレビを見ることは、
ゆうこさんの密かな楽しみでした。
職場に置いてあるコーヒーは粉っぽくて美味しくないので、
ゆうこさんはスターバックスのステンレスマグに、
その日の気分の飲み物を入れて、持って来ています。
今日選んだのはハーブティー。
休憩所で、リコリスの香りを楽しみながら、ボーっと、テレビを見ていました。
その番組は、
<団塊の世代が斬る!>
という番組でした。
★
本当にね!最近のゆとり世代には本当困るというかね、
ゆとりどころかまぁー今の30代40代も、ぬるいというかね。
すぐ、鬱だ、休職だ、って。
ちょっと厳しく怒ったら、すーぐそんなこというから、もう、たまったもんじゃない。
それからあれだ、女子社員たち!
昔のOLたちは可愛かったよー!営業から帰って来たら、
お疲れ様でした!とニコッと笑って、お茶とおしぼりを持って来てくれたりして。
それが今はどうだよー。
お茶持って来て、なんて言ったら、すごい形相で睨まれちゃう。
それは私の仕事ではありません!!!だって。
腹が立って、そのいいケツを掴んでやろうかt、、、
(ここで番組アナウンサーが苦笑いして、制止しました。)
番組アナウンサー:まぁ、そうですね。時代が変わったとはいえ、昔の良いところも、引き継いで行きたいものですよね。古き良き時代。団塊の世代!ばんざい!
★
ウゲーーーーーーっ
ゆうこさんの同僚の美子さんが、休憩室に入って来ました。
「もう、私、団塊の世代のおっさん、ゴキブリの次に、いや、おんなじくらい嫌いなの。
なんで公共の電波を使ってこんなくだらないおっさんの話垂れ流してるんだろ。本当、くだらない。
私の父親もさ、ちょうどこのおっさんとおんなじ世代で。
女は、おとなしくして、男の言うことを聞いてたらいい!て。たまりかねて、母親が反論することもあったんだけど、そんな時は、男に口答えするな!って、殴るの。
私もさ、そんな父親に反抗して、しまいには、家を出て来たの。
それで、今こんなとこで働いてるってわけ。」
美子さんは、乾いた笑みを浮かべて、自動販売機で買ったコーンスープを飲んでいます。
「それで家を出たのは良かったんだけどさぁ。
やっぱり、似たようなオトコと出会ってしまうんだなぁこれが。
家を出て、フラフラしてる時に拾ってくれたオトコがさ。
また、暴力くそ男尊女卑やろうだったんだよね。なんで、私って、そうなんだろう。
ゴキブリホイホイみたいなもんじゃん。
しかも、逃げれないんだよ。。。。他に、行くところがないから。。。。。」
ゆうこさんは、しばらく考え込んだのち、口を開きました。
「そうだよね。男の人ってまぁ色々いてるけど、基本、不器用で。
言葉を知らない。
愛や、不安、をうまく表現できなくて、きつい言葉だったり、怒ったり、するってとこある。
けどね、暴力はいけないね。
美子さん。
あなたは、ぶたれることを、自分に許しちゃいけない。絶対に。
あなたは、自分で自分を守ってあげなくちゃいけない。
ぶたれていい人間なんていない。そう思わない?」
珍しく、ゆうこさんが強めの口調で言いました。
美子さんは、それを聞いて、笑って反論しようとしましたが、言葉が出ず、
代わりにポロポロと涙をこぼしはじめました。
実は、、、、、
お腹に赤ちゃんがいるの。
でもね。
こんな、クソみたいな世界に
産み落とすなんて、私にはできない。
来週に、堕胎手術を受けることになっているの。これは、誰にも言ってない。
こんな私が、この子を幸せにできるはずがないし、
この子が女の子なら、クソ野郎のうじゃうじゃいるこの世界で育てるなんて、耐えられないし、
男の子なら、クソ野郎に育って、きっと私のことをバカにする。
こんな世界なんて、、、、
うっ、、、、、、」
そう言うと、美子さんは、お腹をおさえて、テーブルに突っ伏してしまいました。
ふと椅子の下を見ると、小さな血だまりができています。
「まあたいへん。」
ゆうこさんは、人を呼んで、
いつもの病院まで連れて行くため、美子さんを抱きかかえました。
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